脱サラして飲食店開業の難しさ

今も昔も「脱サラして飲食店」は、サラリーマンを惹きつける。

それは「食」という馴染み深いことが原因か。それは「一国一城の主」という立場が魅力なのか。

だがそれは、とても魅力的でとても残酷な魔物だ。

 

ネットニュースで興味深い記事を見つけた。

「23時まで営業、定休日なし…それでも赤字」夢の焼きそば店に挑んだ25歳元証券マンの想定外(プレジデントオンライン) - Yahoo!ニュース

 

つぶれる飲食店の多くは「味に自信があった」という。馴染み深いがゆえに、美味しいものがわかる。美味しいほうがいいと思ってしまう。

それは本当に危険な罠だ。

一つ目の罠。飽食のこの時代に「まずい店」など探すほうが難しい。だいたいのお店がうまいものを出している。

二つ目の罠。美味しいは「主観」である。おいしいとは「嗜好」である。なぜか人はそれを忘れる。自分の妻とすら好みの違いがあることを忘れてしまう。

三つ目の罠。「美味しい=売れる」と思ってしまう。あなたがものを買うとき、本当にいいものを取り扱っているお店にいくだろうか?使いやすいお店だったり、欲しいものがあるお店にいくだろう。客がえらぶのは「客にとっていい店」であって、「性能がいいものがあるお店」ではないだろう。まして「店主にとっていい店」ではない。客にとっての良さは千差万別である。

四つ目の罠。「売上=儲ける」ではない。特に飲食業やサービス業は、売上に比例してコストが上がる傾向がある。儲けることは、売上とも味とも別の観点が必要である。

 

ニュースの男性はまさにすべての罠にかかっているように見受けられる。

 

とはいえ、行動力こそが重要で、実際に行動しただけで十分素晴らしいことである。さらにあきらめずに学習して、挑戦して、成功までたどり着いたらもっと素晴らしいことだ。

 

さて、焼きそばの専門店というのは、実際どうなのだろうか。

まずあまりに家庭食もしくはお祭りで食べる印象が強すぎる。一定の需要があるかもしれないがニッチであるのは間違いない。

次にそんなニッチ市場において、ソースのみで行くというのはニッチオブニッチである。すし屋でいうなら「マグロの軍艦のみ」というレベルだ。証券会社なら、「車業界の株のみ」を扱うレベルだろう。

どうしてもそこで戦っていくのであれば、「圧倒的強み」を形成しポジションを確立しなければいけない。「マグロの軍艦のみ」ならマグロの養殖をしてるとか、大間のマグロ漁師のお店とか、店主が一本釣りしたマグロとか。

「車業界の株のみを扱う証券会社」なら、トヨタの元社長がやっているとか。それなら車関係の部品メーカーなどのいいものを紹介してくれそうな期待がある。

ソース焼きそばのみ」のお店では・・・申し訳ないが筆者は全く思いつかない。

あなたは思いつくだろうか?

 

ニッチ戦略の主戦場はインターネットだ。それは、ニッチなものでも一定の市場を形成しやすいことにある。

飲食店は基本的には地に足付いた業種だ。「売れる場所」が大事。もちろんインターネットでの集客もあるが、その人が自分の足でたどり着く必要がある。

わざわざ行きたいお店ならアクセスが悪くても許される。焼きそばは生活圏にあればよるかもしれないお店だろう。焼きそばでわざわざ行きたいと思わせる仕掛けが必要。

それが味だけで作れるのかということをしっかりと考えなければならない。

そもそも美味しいとは何かを考えなければならない。

 

かくも奥深きかな飲食業。